映画『おっぱいバレー』の主題歌であるCaocaoの『個人授業』を聴いていると、不思議なデカダンスとトリップ感があるようにきこえる。「うっとりしてしまう」、「魔法にかかったように昼も夢見ている気分」、「このまま続いていけば、きって死んでしまう」といった歌詞など、薬物でもやってるんじゃないかといった感じである。原曲は1973年のヒット曲、作詞は阿久悠、歌っていたのはフィンガーファイブ、そして彼らの出身地である沖縄は前年の1972年にアメリカから日本に返還されている。ベトナム戦争はまだ続いており、沖縄は米軍にとって重要な兵站基地であった。
薬物文化には戦争の副産物という側面があったかもしれない。モルヒネのような鎮痛剤からヒロポンのような精神高揚剤が戦場において使用されていたからである。戦場に向かう兵士には薬物が使われ、トラウマを負って戦場から戻ってくる兵士には、日常生活に戻すために精神分析が用いられたという説がある。限られたブルジョワの「文化」であった精神分析がヨーロッパにおいて広まり出すのは第一次大戦後であり、アメリカにおいて精神分析文化が普及するのは第二次世界大戦後である。精神分析が普及した背景には戦争という要素も、あったのかもしれない。
北九州も「基地の街」だったことがあるはずである。朝鮮戦争時代、このあたりの基地からは連日米軍機が半島に向けて飛び立ち、さらに孤立した韓国軍を支援するため、往路では食料・弾薬・燃料・医薬品を満載し、復路では負傷兵と戦死体を満載した米軍の艦船が、北九州とプサンをピストン運行していたはずだからである。
1970年代の設定になっている『おっぱいバレー』では「日の丸」は登場しないが、ところどころで星条旗が象徴的に登場する。
そう妄想をたくましくしていると、ヲヴァカでピュアな青春コメディというだけでなく、重層的に見えなくもない。市の教育委員会フィルム・コミッションが全面的に協力しているらしいのだが、やはり子供には見せられないという話もある。