時事ネタです


このところ経済誌タブロイド紙の一面などで「危ない不動産会社リスト」特集が報道されています。不動産9月危機説、これから不動産会社がばたばたと逝くというわけです。その理由について「サブプライムローン問題が云々」と書かれることが多いのですが、「こんなにマンションを造っていったい誰が買うのだろう」という状況はしかし、もう何年も前からあったでしょう。
さて新興不動産の業務内容を見ると「不動産流動化事業」が多いように、第一次バブル経済と第二次バブル経済は連続しています。かつてのバブル経済崩壊によって動かなくなった不動産をいかに動かす(流動化)かが、この一連の発端にあったように見えるわけです。
その仕組みのひとつは言うまでもなく証券化です。不動産自体は文字通り動きません。これを証券化し、その証券市場を作ることで、不動産を証券として動かし、また小口投資家を市場に引き込むことで、動きを活発化させるという方法です。この証券化という方法自体は住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)も採用しているように、おそらく時代の趨勢なのでしょう。バブルとなった背景にはしかし、こうした証券市場が実体とはかけ離れたところで動き出したことも、あるのではないでしょうか。
もうひとつよく聞いた言葉に「レバレッジ/梃子の原理」があります。この言葉自体はいまやあちこちで使われています。かつて外資の人たちが数百万円の元手で数百億円のプロジェクトを動かそうとしているという話をきいて、いったいどういう仕組みを用いているのだろうと思いましたが、今にして思えばこのレバレッジがその仕組みだったのだろうと思います。不動産の基本は“equity,”“asset,”“debt”にありますが、“debt”(借入)を用いて“asset”(純資産)から“equity”への評価を文字通り梃子の原理のように級数的に変える方法と、これは言えるでしょうか。
不動産流動化についてさらにいえば、「リノベーション」とか「コンバージョン」とか「バリューアップ」といった言葉の流通も特徴的だったかもしれません。“conversion”は宗教上の「改宗」や思想上の「転向」にも使われる言葉ですが、カタカナで「コンバージョン」と書くと、また違ったように見えてきます。こうした方法には今後も定着していくものもあるかもしれませんが、実態からみていかがなものかと思えるものもあります。
そのひとつは法律のグレーゾーンをつくようなやり方でしょう。建築基準法上は大規模な改修(その基準は構造体の半分以上に手を付けることにある)以外の改修や10?未満の増築は建築確認が必要でないことになっています。
冒頭で利回り計算という言葉を使いましたが、証券市場において投資の基準となっているのはこの利回りです。しかしこの基準が一人歩きを始め、また優先されると概して建築の質は下がっていきます。利回りを優先し、法律的に野放しとなればどうなるか。まるで19世紀の貧民窟か現代の『蟹工船』のような光景が、東京のアンダーグランドに人知れず出現したようにも見えるわけです。


いずれにせよ、私自身はといえば、かつてのバブルでも今回のバブルでもほとんど恩恵に浴することもなく、バブル経済が終わろうと終わるまいと他人事といえば他人事なのかもしれませんが。


このところ建築価格が高騰しています。理由としてはまず「鋼材単価が上がっている」といわれます。各項目ごとに三年前の工事単価と比較するとしかし、鋼材以外の単価も軒並み上がっているのですね。そうすると「ガソリン価格が上がった」という理由になるのでしょうか。ガソリン価格が1.5倍になったとして、しかし各単価の方は1.5倍以上あがっているものも多いです。燃料費高騰のおかげで漁に出られなかった漁師さんたちがいたように、ガソリン価格高騰によって工事単価が上がることは予測できるのですが、この上げ幅はどこまで妥当なものなのか。
ガソリン価格高騰の背景のひとつにマネーゲームがあります。マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』において、モデルとして登場するのは建設労働者(大工)です。建設労働はいわば「労働」の原像だったわけで、一つの時代の範型だったのかもしれません。